ゲームばっかりしてなさい。〜12歳の息子を育ててくれたゲームたち〜/浜村弘一

ゲームばっかりしてなさい。-12歳の息子を育ててくれたゲームたち-

ゲームばっかりしてなさい。-12歳の息子を育ててくれたゲームたち-

著者は浜村弘一氏。浜村通信、といったほうが分かりやすいかも知れない。

浜村 弘一(はまむら ひろかず、1961年2月8日 - )は元『週刊ファミ通』編集長、現在は株式会社エンターブレイン代表取締役社長、株式会社角川グループホールディングス・株式会社角川グループパブリッシング・株式会社角川ゲームス・株式会社ブックウォーカー各社取締役。ペンネームは浜村通信
浜村弘一 - Wikipedia

この本は、そんな浜村氏の

息子とボクの成長の記録

だ。

ゲームによって浜村氏が得たもの

この本では、時系列順に、息子さんとの体験談、それを通して浜村氏が感じたこと息子さんの成長が描かれている。
たとえば、野球に全く興味がなかった息子さんが、マリオの野球ゲームを通じて野球に興味をもち、親子でのキャッチボールが実現したり。
たとえば、二人でヴァナディール*1へと冒険にでて、
そこで息子さんが「お金を稼ぐこと」や「他人との関わり方」を学ぶ姿を目の当たりにしたり。
読んでいるとなんだか心があたたまる気がした。

しかし、テレビゲームに対する世間の目は、偏見に満ちていた。

ゲーム脳」という言葉がある。カンタンに言ってしまえば、「ゲームをするとコミュニケーション能力が低くなり、バカになり、ひどいと他人をぶっ殺したりする」という事だ。
しかし、浜村氏はこの「ゲーム脳」という言葉を世に出した(論文を書いた)教授に実際にあって話をしている。
そこでは、研究で行った実験の問題点を指摘。
また研究を行った教授も、その指摘に対しては素直に「自分の実験とは異なった結果が出る可能性がある」ことを認めている。
しかし、マスゴもといマスコミにとって非常に都合のよかった「ゲーム脳」という言葉は、前述のような意味で使われてしまうことになった。
結果、「ゲーム=悪」というシンプルだが暴力的な式が浸透してしまう。

ゲーム=悪、が子供を苦しめた

この本を読んではっとした話があった。
それは、「犯罪者の部屋からはたくさんのゲームソフトが見つかり・・」などと報道されているのを見た息子さんのクラスメートが、
他のゲーム好きなクラスメートを「ゲームばかりやって、ゲーム脳になるぞ」とからかったそうだ。
それを見た息子さんは、「ゲームをやっている自分は、将来、人を殺してしまうんじゃないか」と不安になったそうだ。
本の中ではこのように書いてある。

ボクにとってのいちばんの衝撃はそのあと*2起こった。いっしょにテレビを見ていた小学生の息子が突然、ぽつりと漏らした。
「おとうさん、ボク、大丈夫だよね?」
一瞬、彼が何を言っているのか、わからなかった。つぎの瞬間、ボクは胸がかきむしられる思いがした。彼は、明らかに間違っているゲーム脳報道を見て、自分が将来、「人を殺す人間になるかもしれない」という恐怖を抱いてしまったのだ。

「世間の無理解」という、巨大で、実態のない何者かが自分の息子を苦しめていたら、それは胸がかきむしられる思いがして当然だとおもう。
今まで「ゲーム脳が・・・」なんて報道を見ても、「バーカ」としか思っていなかったけども、
本当に素直にゲームを楽しんでいる小学生からすれば、なんて恐ろしい話だったんだろうと思って、衝撃だった。

昔のテレビだって、漫画だって、そうだったはず。

ゲームが悪者にされている現状に、浜村氏はこう述べている。

かつてはマンガだって、読めばバカになると言われた時があった。テレビだってそうだ。テレビのブラウン管から、"人をバカにする電波"が出ると噂された時代が本当にあったのだ。当時の大人は、テレビのそばに子供を近づけてはダメだと思い込んだ。そんな無理解の洗礼を受けてきたテレビが、同じ論法でネットワークゲームをバッシングしている。バカげた話だ。

この本が出版されたのが2007年。
それから5年で、テレビは本当に"人をバカにする電波"を出すようになった。この点では昔の人はある意味正しかったかもしれない。

だが、そんなゲームに理解を示す人も出てきている

ニンテンドーDSなどで、大人もプレイするようになった影響か、娯楽・メディアとして成熟してきたからか、上のような無理解は徐々に*3無くなってきているのかもしれない。
それは浜村氏が公的な機関や学校などに呼ばれてアドバイスや講演を求められたときの、周囲の反応からも伺える。
少なくとも、浜村氏のようにポリシーを持って子供にゲームをプレイさせ、自分たちのコミュニケーションの為のツール、子供を成長させる為のツールとしてゲームを用いることが出来れば、何の問題もないはず。
浜村氏は、「ゲームに子供の面倒を見させようとすることが、よくない」という趣旨のことを言っている。
親がまずゲームを理解して上手に使わないと。

ゲームへの偏見に関していろいろ言ったものの、やっぱり「こんな親子、いいなぁ」

ゲーム業界の苦悩や、マスコミの問題点など、いろいろなことが書いてある本書だけど、
やっぱり主役は「親子の話」
お風呂に入りながら、MOTHER3*4の感想(というより論)を言い合うような、そんな父と子。
共通の趣味なら何でもいいんだと思う。浜村親子には、それがゲームだっただけ。
こんな家庭を持ちたいなぁと思った、いい本だった。

*1:オンラインゲーム『ファイナルファンタジー11』の舞台となる架空世界。

*2:electricalpeach注:テレビでゲーム脳がどうこうというニュースをみたあと

*3:かつマスコミ以外で

*4:奇妙で、おもしろい。そして、せつない。ゲーム。